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最高裁判所第三小法廷 昭和30年(あ)1291号 判決 1957年4月16日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人宗宮信次、同真木桓、同鍵山鉄樹、同川合昭三の上告趣意第一点について。

所論は、原審が弁護人に対し公判期日を通知することなく公判審理を行い判決をしたのは、憲法三七条三項に違反しかつ大審院及び東京高等裁判所の各判例に違反すると主張する。よって記録を調べてみると、原審において、被告人は適法に弁護人伊藤俊郎、同真木桓の両名を選任したこと、控訴趣意書提出最終日は、はじめ昭和三〇年二月七日と定められていたが、伊藤弁護人からその延期を求め原審はこれを許し同年二月一五日と変更したこと、真木弁護人は同年二月四日附をもって、伊藤弁護人は同年二月一五日附をもって、それぞれ控訴趣意書を提出したこと、原審は公判期日を昭和三〇年三月一六日と定め伊藤弁護人にこれを通知し、被告人には召喚状を送達したが、真木弁護人にはその通知をした形跡がないこと、右公判期日に伊藤弁護人のみ出頭したところ、原審は、右伊藤弁護人を主任弁護人と指定し、同弁護人は、真木弁護人及び自分名義の各控訴趣意書に基いて弁論をして結審し、裁判所は判決宣告期日を同年三月二三日と指定告知したこと、そして右期日に被告人も弁護人も不出頭のまま判決の宣告があったことの各経過を認めることができる。従って真木弁護人に公判期日の通知をしなかったのは、訴訟手続上違法たるを免れない。しかし前記経過の示すように、伊藤弁護人は、主任弁護人の指定を受け、真木弁護人不出頭のまま真木弁護人の趣意書に基いても弁論したので、同弁護人の控訴趣意書も、原判決の判断を受けていることが認められるのみならず、真木弁護人は、適法に告知された判決宣告期日またはそれまでに、弁論再開の申立その他の異議、不服を申し立てた形跡は記録上これを認めることはできない。この経緯にかんがみるときは、原審の手続をもって直ちに判決に影響を及ぼすべき違法ありとして破棄の理由とするには足りないものというべく、従ってまた憲法に違反するという主張は前提を欠くことに帰する。そして所論引用の各判例は、すべて旧刑訴若しくは一審手続に関するものであって本件に適切とはいえない。従って所論は採用することはできない。

同第二点について。

記録によれば、所論の蓮見重治裁判官が昭和三〇年三月二三日原審の判決言渡に関与していること及び同裁判官は、先の昭和二八年九月四日言渡された破棄差戻判決の審判に関与し判決書に署名捺印していること所論のとおりである。しかし右のようにはじめの控訴審の破棄差戻判決に関与した裁判官が、その後の控訴審の判決の宣告のみに関与しても除斥の理由とならないことは、当裁判所の判例の趣旨に徴し明らかであるから、論旨は理由がない(昭和二六年(あ)第四九九二号同二八年一一月二七日第二小法廷決定、集七巻一一号二二九四頁参照)。

その他記録を調べても刑訴四一一条を適用すべき事由は認められない。

よって同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小林俊三 裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己 裁判官 高橋潔)

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